その時は大丈夫だと思っていた。
だが思った以上に危機は近づいていた。
いつもそうだ。
私は学ばない。その時は大丈夫だと思っても
そんなにうまくはいかないのだ。
いつもそうだ。
いつも過ちを繰り返す。
その時は、大丈夫だと思いこんでしまうのだ。
その日も問題なく家を出て最寄りの公共交通機関に乗り込む。
このときも特段の問題もない。
しかし、ここからである。
扉が閉まり密室となり外に出れない状況。
やつはやってくる。
便意はやってくる。唐突に。
脂汗をかきながら次の到着地点を待つ。
到着すると不思議と波が引く。あぁこれは大丈夫だ。焦って途中で降りる必要性はない。
そうして扉が閉まると第二波がやってくる。
まただ!私は・・・また同じ過ちを繰り返した!
降りるべきなんだ!まだ波の強さが、弱いうちに!
イライラしているかのようにつま先をついついゆかでトントンと鳴らしてしまうが
そっちのほうに意識を集中しておかないと暴発の危険性がある。
またも脂汗を滲ませ耐える。
そして次のチャンスで扉が空いたとき考える
果たしてここの個室は空いているのだろうかと。
とにかく不安がのしかかる。
大きな大きな場所ならば、個室も多くあるだろう。
だが、ここにそこまでの数があるのだろうか?
そして、めったに降りないこの場所ですんなりと個室に移動できるだろうか?
途中で降りて確実のこの苦しみから開放されるのだろうか?
そんなことを考えていると扉は閉まる。
これはもう最後まで耐えるしかあるまい。
私も男だ。一端の戦士だ。耐えきってみせる。
耐えた先に、個室は偶然空いていた。
これはよかったと駆け込む。
戦いは終わったのだ・・・
しかし、そんなことをしていると個室の前には、戦っている最中の「戦士」が並ぶ。
そして苦しそうにうめき声を上げるのだ。
そして聞こえるのだ・・・戦士の声が、まさに個室の前ですべて埋まってしまっている個室の前での絶望的なセリフが聞こえる。
「もう無理だ・・・はやく・・・はやく・・・
あぁ・・・もうだめだぁ・・・」
すぐにでも変わってやりたい・・・その気持はあるのだがまだ、次の波と戦っている。
偶然隣の個室の戦士が出ていった。
隣の個室から戦士の安堵の声が聞こえる。
ただ気になるのは
一切ズボンを下ろす音が聞こえなかったことだが
あまり考えないことにした。