「やられた・・・」
と、親友は私の家の玄関にうずくまりました。
私はまったく状況が呑み込めず、どうしたの?と聞くしかできない。
すると
「今日は黒い服を着ていたから、つけこまれちゃったのかな」
といいます。
ますます????となる私に、彼女は「塩をまいてほしい」というので、わけもわからず私は塩を彼女の上着にふりかけました。
何はともあれ、急に具合悪そうにしてるので、部屋に再び招き入れて、様子をみていると、彼女は、さっき送り届けた杖をついた女性の話をはじめました。
私は自転車で離れていたから聞こえなかったけど、送り届ける短い時間に、向こうが個人的な事情を話したそうです。交通事故にあって杖が手放せなくなり、成人した子供もアパートによりつかず、孤独であると。そして、お酒のにおいもしたと。ようは、ちょっとかわいそうなよっぱらいおばちゃんだったのです。
「邪悪なものにつけこまれちゃった」
とあまりにその女性をボロカスいうので、ご近所さんに邪悪なものって意外と失礼だなと思いながらも、
「それでも、杖をついて歩くのが大変そうな人を送り届けてあげて、偉いと思うよ~」
と私はいいました。私はとても軽く、なんとなくそういったのを覚えています。
そのあと、彼女が何をいっていたかは、もう8年以上前なので記憶があいまいです。ただ、彼女はそれほど主張が強いタイプではないので、あまり強く、その酔った女性を非難することはなく、私も軽い気持ちで「えらいじゃん」といったことは印象に残っています。
正直言うと、「黒い服を着ていたからつけこまれた」「近所の酔ったおばちゃんを邪悪なものという」などは私にはよくわからない価値観です。ただ、それでも大切なお友達ですから、うんうんとその日の夜は聞いて終わりました。
次の日、目が覚めると、親友は先に起きてお味噌汁を作ってくれていました。人の手料理を食べる機会がなかなかないのでとっても嬉しかったのです。
そして、その日は一緒にお出かけすることになっていました。
身支度をして、みそ汁をいただいて、さあ出発。でも、「黒い服ででかけるのは嫌だ」というので、私のライトブルーの巻きスカートを貸してあげました。
でも、この夜が、彼女の命を間接的に奪うなんて、私は今でもどうしたらよかったのかわからないのです。
Writer:namonakiwriter
HomePagehome Twitter