死んでしまった親友の話(1)

あれから8年が経ちます。

私は親友がいたのですが、8年前に亡くなりました。もう8年も経つんですね。人が亡くなったことを記事のネタに、しかも寄稿コラムのネタにするのはどうかとも思ったのですが、だいぶ時間が過ぎたので、記憶を刻み付ける意味でも、文章にしてみたく思います。

 

親友はどんな人だったか

 

親友はピアノの先生でした。とても繊細で思いやりがあり、人の痛みがわかる人でした。あと、とてもとても美人でしたけどそれを鼻にかけるところは微塵もありません。育ちがよくて、やさしくて、とてもいい人でした。

 

私と彼女は同い年。私が無職のころに通っていた社会復帰センターで出会いました。最初の日から意気投合して、公園で遅くまでおしゃべりしたのを覚えています。それから、いろいろなところにいきました。南青山でコンサート、できたばかりのスカイツリー、退院後のディズニーランド、大きな公園、新しくできた近所のカフェレストラン…おかげで穏やかな日々が続きました。

 

ある日の事件

 

ただ、一度だけ事件が起こったのです。ある日、彼女は一人暮らしの我が家に泊まりに来ることになりました。夕方、お風呂に入ったあと自転車で駅まで迎えにいって、暗い中、私が自転車を押し、彼女は歩いて、のんびり帰宅していると…

 

「すみません、すみません」

 

と暗闇から声が聞こえてきました。何だろうと思っていると、暗闇に、杖をついた50歳ぐらいの女性が立っていて、こちらを呼んでいます。私はぎょっとしたのですが、親友は「どうしたんですか?」とその人に駆け寄りました。

 

「駅から自宅まで帰りたいのですが、足が悪くて、、、ちょっと支えていただけませんか?」

 

とその女性はいうのです。私は自転車だったので、親友がその女性を支え、自宅まで一緒に送り届けました。私は自転車を押していたからふたりの会話は聞き取れなかったけど、彼女は杖をついた女性を支えてあげていました。

 

「さすが、やさしいなあ。私ひとりだったら無視してしまっていたかもしれない…私ももっと、人助けできるようになりたいな」

 

と思っていました。その女性のアパートまで送り届け、私たちは私のマンションに到着。さあ、ゆっくりしよう!と思っていると、親友は「具合が悪い」と言い出して、やっぱり帰りたいというのです。

 

およ、いいよ、じゃあまた駅まで自転車で送るね、と思ってまた出かける準備をしようとしていたら、玄関で親友がうずくまって、顔をみると真っ青になっていたのです。

 

どうしたの?と焦る私に、親友は

 

「やられた・・・」

 

と苦痛で顔をゆがめているのです。

そして、これをきっかけに、彼女は暗闇の底に落ちて、その結果、命まで落とすことになってしまいます。

2020-02-14 07:57:34

Writer:namonakiwriter

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